地球温暖化対策やエネルギー問題の解決に向けて、注目が集まる「人工光合成」と「光触媒」を活用した水素生成技術。本記事では、CO2排出ゼロを目指す最先端の研究開発動向から、名古屋大学や東京大学、信州大学といった国内トップの大学、そして富士フイルムやTOTO、三菱ケミカルなどの企業が取り組む実用化プロジェクトまで幅広く解説します。太陽光を利用したクリーンなエネルギー生成の仕組みや、温室効果ガス削減への挑戦、さらには将来の社会実装に向けた課題と展望についても詳しく紹介。環境負荷ゼロの未来を切り拓く革新的技術の全貌をぜひご覧ください。
1. 水素と人工光合成の最新技術動向|日経が注目するCO2ゼロの実現へ
1-1. 水素生成における人工光合成の基礎と仕組み
人工光合成は、太陽光エネルギーを利用して水を水素と酸素に分解する技術で、自然界の光合成を模倣したものです。水から生成される水素はクリーンなエネルギー源であり、燃焼してもCO2を排出しません。光触媒が太陽光を吸収し、水の分解反応を促進することで水素を生成します。これにより、化石燃料に依存しない持続可能なエネルギー社会の実現が期待されています。
なお、人工光合成で水を分解して生成した水素と酸素の混合気体(爆鳴気)は、4~75%の水素濃度範囲で引火源があると爆発の危険があります。この課題を解決するため、分離膜技術とセル分離設計が採用されています。
水素分離の核心技術
- 分離膜によるガス分離:
特殊なゼオライト膜や高分子膜を使用し、水素分子(H₂)のみを選択的に透過させます。三菱ケミカルグループのプロジェクトでは、混合ガスから99.9%以上の純度で水素を分離する技術を開発。この膜は水素分子の小さなサイズ(0.289nm)を利用し、酸素分子(0.346nm)をブロックします。 - 独立セル設計:
名古屋大学と信州大学の共同研究では、水素発生セルと酸素発生セルを物理的に分離。水素側にセレン化モリブデン光触媒、酸素側にNiFe-LDH/BiVO₄触媒を配置し、I₃⁻/I⁻伝達材で電子移動を促進することで、混合を根本的に防止しています。
爆発リスク対策
- 濃度管理:分離膜により水素濃度を爆発下限界(4%)未満に制御。
- リアルタイム監視:ガスセンサーで濃度を常時モニタリングし、異常時に自動遮断するシステムを導入。
- 材料設計:東京大学の屋外実証実験では、692.5cm²の大面積パネル型反応器で1週間連続運転を達成。アクリル基板と耐腐蝕コーティングにより、長期安定性を確保しています。
これらの技術により、2024年時点で4%の太陽光エネルギー変換効率を達成しつつ、安全な水素分離を実現。NEDOプロジェクトでは2030年までに10%効率と大規模プラント構築を目指しています。
1-2. 光触媒の役割とCO2削減技術
光触媒は太陽光を吸収し、水を水素と酸素に分解する役割を担います。高効率な光触媒の開発は、人工光合成の実用化に不可欠であり、CO2排出ゼロのグリーン水素製造を可能にします。さらに、生成した水素と工場や発電所から排出されるCO2を利用してプラスチック原料などの化学品を合成する技術も進展中で、CO2の資源化による温室効果ガス削減に貢献しています。
1-3. 日経が報じる注目の研究・開発と実現の動き
名古屋大学、東京大学、信州大学を中心に、光触媒の高効率化や水素と酸素の分離技術の研究が進んでいます。企業では富士フイルム、TOTO、三菱ケミカルがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と連携し、人工光合成の実用化に向けた光触媒シートの開発や大規模製造技術の確立に取り組んでいます。

2. 光触媒と半導体が拓く化学エネルギー変換の最前線
2-1. 光触媒・半導体のメカニズム解説と実用化への課題
光触媒は半導体材料で構成され、太陽光の可視光から近赤外光まで幅広い波長を吸収し水を分解します。名古屋大学と信州大学の研究では、セレン化モリブデンやCTGSという新素材を用い、従来の紫外線領域に限定されていた光吸収範囲を拡大し、効率的な水素生成を実現しています。ただし、光触媒の耐久性や大量生産のコスト低減が今後の課題です。
2-2. CO2・CO₂を資源に変える化学反応の最適化
三菱ケミカルは、人工光合成プロジェクトの一環として、水素とCO2を反応させてエチレンやプロピレンなどのオレフィンを合成する触媒技術を開発。これにより、従来のCO2排出型化学品製造プロセスをCO2吸収型へと転換し、温室効果ガスの大幅削減を目指しています。
2-3. エネルギー効率向上のための最新材料技術
NEDOと共同研究機関は、世界初となる100%に近い量子収率で水を分解する光触媒の設計指針を確立。これにより太陽光エネルギー変換効率の大幅向上が期待され、人工光合成の実用化に貢献しています。
3. 太陽光・太陽エネルギーを活用した人工光合成の進化
3-1. 太陽光の利用による水分解・酸素発生プロセス
太陽光の可視光から近赤外光までを活用する光触媒が開発され、より効率的な水分解が可能になっています。信州大学ではCTGS光触媒を用い、太陽光のほぼ全波長を利用して水素生成効率を向上させる技術を実現。また、表面修飾技術により活性をさらに高めています。
3-2. グリーンエネルギー実現のための大規模太陽光システム
TOTOはスクリーン印刷技術を用いた混合粉末型光触媒シートを開発し、大面積化と低コスト化を実現。これにより、大規模な太陽光利用型水素製造システムの社会実装が見込まれています。
3-3. 再生可能エネルギーとクロステックへの発展
人工光合成は再生可能エネルギーと化学品製造を融合させたクロステックとして注目されており、名古屋大学と信州大学の共同研究では、太陽光と水を使い医薬品材料とグリーン水素を同時に生成する新たな人工光合成技術も報告されています。

4. CO2ゼロへの挑戦|温室効果ガス排出・削減プロジェクト
4-1. CO・CO₂排出量削減の新たなアプローチ
日本政府は2050年カーボンニュートラル宣言を掲げ、人工光合成を含むCO2排出削減技術の開発を推進。人工光合成はCO2排出を抑制しつつ、CO2を有用な化学品に変換する技術として期待されています。
4-2. 温室効果ガスフリーを目指す研究とプロジェクト事例
NEDOの人工光合成プロジェクトでは、光触媒の効率化、分離膜技術、合成触媒技術の3段階で研究が進み、2024年には4%の太陽エネルギー変換効率を達成。2021年からは屋外実証試験も開始し、実用化に向けた取り組みが加速しています。
4-3. カーボンニュートラル社会への展望と課題
人工光合成の実用化には、光触媒の耐久性向上、システムの大規模化、コスト低減が課題。2030年には変換効率10%を目標に研究開発が進められており、2040年頃の社会実装が期待されています。
5. 水素燃料・燃料電池による持続可能なエネルギー供給
5-1. 水素燃料の製造・貯蔵・供給技術の進展
人工光合成で生成したグリーン水素は、燃料電池や化学品製造に利用可能。水素の安全な貯蔵・輸送技術も進んでおり、液化水素や有機ハイドライドなど多様な技術が実用化されています。
5-2. 燃料電池や分解・変換システムの開発動向
水素燃料は燃料電池車や発電用途での利用が拡大中。人工光合成由来の水素はクリーンで持続可能なエネルギーとして注目され、燃料電池技術の発展と連動しています。
5-3. プラスチック等化学品製造における水素利用の可能性
三菱ケミカルは、人工光合成で得た水素とCO2を用いてオレフィン類を製造し、プラスチック原料としての利用を推進。これにより化石燃料依存からの脱却を目指しています。

6. 環境・資源問題を解決するための人工光合成技術
6-1. 環境負荷低減と資源循環型の化学プロセス
人工光合成は、CO2排出を抑制しつつ、廃棄物を資源に変える循環型社会の実現に寄与。名古屋大学らの研究では、有機物分解と水分解を同時に行う新技術で環境浄化も期待されています。
6-2. 化石燃料依存からの脱却とCO2原料活用
光触媒を用いた水素製造とCO2の化学変換技術により、石油資源依存から脱却し、持続可能な素材生産が可能に。大学と企業の連携で研究開発が加速しています。
6-3. 社会実装に向けたコスト・効率・規模の最前線
TOTOのスクリーン印刷技術による光触媒シートの低コスト大量生産や、NEDOの大規模実証試験が社会実装の鍵。効率向上とコスト削減が今後の課題です。
7. 触媒・光触媒開発の最前線|変換効率とゼロエミッション
7-1. 新素材・高効率化を可能にする開発例
信州大学のCTGS光触媒や名古屋大学のセレン化モリブデン光触媒など、新素材の開発により太陽光の幅広い波長を利用し高効率化を実現しています。
7-2. ゼロエミッション達成のための触媒最適化
NEDOは世界初の100%近い量子収率の光触媒設計指針を確立し、収率低下要因を抑制。これによりゼロエミッションの実現に向けた基盤技術が固まっています。
7-3. 実用化への基礎研究と企業の最新プロジェクト
富士フイルム、TOTO、三菱ケミカルなどがNEDOプロジェクトに参画し、光触媒シートの実用化、大規模化、コスト削減を目指す研究開発を推進中です。

8. 水素・人工光合成によるグリーン化学プロセスの実現
8-1. グリーンケミストリーと触媒活用の新潮流
人工光合成はグリーンケミストリーの理念に合致し、少量の光触媒で効率的に反応を進めることで環境負荷を低減。大学・企業の共同研究が進んでいます。
8-2. CO2原料での化学品・燃料製造と大規模化
光触媒で生成した水素とCO2を反応させて化学品を製造し、プラスチック原料などへ応用。大規模生産技術の確立に向けた取り組みが活発です。
8-3. 企業・大学共同での開発と社会実装事例
名古屋大学、東京大学、信州大学が中心となり、富士フイルム、TOTO、三菱ケミカルが参画。NEDOの支援のもと、社会実装に向けた技術開発が進んでいます。
9. 大規模システム設計・貯蔵技術とコスト課題
9-1. エネルギー貯蔵・安定供給のための新技術
水素の安全な貯蔵・輸送技術が進展し、液化水素や有機ハイドライド、圧縮水素など多様な手法が利用されています。大規模エネルギー貯蔵システムの構築も進められています。
9-2. システム全体最適化と経済性評価
光触媒シートの大量生産技術や高効率化により、システム全体のコスト削減と効率向上が期待されており、経済性の評価と最適化が重要課題です。
9-3. 将来展望とプロジェクト達成へのロードマップ
人工光合成は2030年に10%の太陽光変換効率達成を目指し、2040年頃の社会実装が見込まれています。大学・企業・政府が連携し、カーボンニュートラル社会実現の鍵技術として期待されています。
以上のように、名古屋大学、東京大学、信州大学を中心に、富士フイルム、TOTO、三菱ケミカルなどの企業がNEDOの支援のもと、人工光合成による光触媒水素生成とCO2ゼロの実現に向けた先進的な研究開発を推進しています。これらの技術は、持続可能なエネルギー社会とカーボンニュートラルの実現に向けた重要な一歩となっています。

Citations:
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/03/post-795.html
https://www.shinshu-u.ac.jp/zukan/cooperation/post-68.html
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101311.html
https://www.nedo.go.jp/content/100952922.pdf