NTTが推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、光技術を中心とした革新的な次世代通信インフラ構想であり、高速大容量、低遅延、低消費電力を実現し、6G時代の基盤となることが期待されています。
IOWNに期待される課題解決
IOWNは、現代社会が直面する複数の重要な課題の解決を目指しています。主な焦点は、急増するデータトラフィックへの対応と、ICTインフラの消費電力削減です。経済産業省の予測によると、2006年から2050年にかけてIT機器の消費電力量が12倍に増加する見込みであり、これは深刻な環境問題となっています。IOWNは、従来の電気配線に比べて大幅に消費電力を抑える光電融合技術を活用し、電力効率を100倍に向上させることを目標としています。同時に、IOWNは伝送容量を125倍に増加させ、遅延を1/200に削減することで、5G/6G時代の高度な通信需要にも対応します。さらに、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)の実現により、ユーザーや用途ごとに最適化された超高速・大容量通信を可能にし、スマートシティや遠隔操作など、次世代の技術革新を支える基盤となることが期待されています。
IWONの構成技術
IOWNは主に3つの主要技術分野から構成されており、これらの技術が連携して革新的な情報通信基盤を実現します。IOWNの主な構成技術は以下の通りです:
- オールフォトニクス・ネットワーク (APN: All-Photonics Network): ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、圧倒的な低消費電力、高速大容量、低遅延伝送を実現
- デジタルツインコンピューティング (DTC: Digital Twin Computing): 実世界とデジタル世界の掛け合わせによる未来予測や高度なシミュレーションを可能にする技術
- コグニティブ・ファウンデーション (CF: Cognitive Foundation): ICTリソースの全体最適化と管理を担い、自動化・自律化された運用を実現する技術
これらの技術分野が相互に連携することで、IOWNは従来のICTの限界を超えた新たな情報通信基盤の実現を目指しています。
オールフォトニクス・ネットワークの革新
オールフォトニクス・ネットワーク(APN)は、IOWNの基幹技術の一つであり、ネットワークから端末まですべてにフォトニクスベースの技術を導入することで、超大容量・超低遅延・超低消費電力を実現します。APNでは、電気処理を行わず光波長信号のまま処理して伝送することで、従来のネットワークと比較して大幅な性能向上が可能となります。NTTとKDDIは、このAPNのグローバル標準化に向けて基本合意書を締結し、世界中のパートナーとのオープン・イノベーションを通じて、Beyond 5G/6G時代の課題解決に向けた持続可能な大容量光ネットワークの実現を目指しています。
デジタルツイン・コンピューティングへの応用
デジタルツイン・コンピューティング(DTC)は、IOWNの重要な構成要素であり、現実世界の人やモノをサイバー空間上に高精度に再現し、さまざまなシミュレーションや予測を可能にする技術です。DTCは製造業、都市計画、医療など幅広い分野での応用が期待されています。例えば、製造業では生産ラインの最適化や予知保全に活用され、都市計画では「バーチャル・シンガポール」のように都市全体のデジタルツイン化によるインフラ整備の効率化が図られています。また、医療分野では患者の個別化された治療計画の立案や、新薬開発のシミュレーションにも応用が可能です。DTCの実現により、現実世界の課題解決や新たな価値創造が加速することが期待されています。
コグニティブ・ファウンデーションの役割
コグニティブ・ファウンデーション(CF)は、IOWN構想の主要技術分野の1つであり、ICTリソースの全体最適化と管理を担う重要な役割を果たします。CFは、クラウド、ネットワーク、エッジなど多様なICTリソースを一元的に管理し、自動化・自律化された運用を実現します。AIやブロックチェーン技術を活用し、データの高速・高精度な処理と分析を行い、必要な情報をネットワーク内に効率的に流通させます。さらに、CFは自己進化型ライフサイクルマネジメントを実現し、未来予測を用いた対策立案や実行、無線アクセスの最適化など、システム全体の継続的な改善を可能にします。これにより、IOWN構想は複雑化するICT環境に対応し、持続可能で効率的なインフラストラクチャの実現を目指しています。
IWONの展望
IOWNの国際標準化と世界展開に向けた取り組みが進んでいます。NTTを代表とするIOWN Global Forum (IOWN GF) は、国連の標準化機関ITU-Tに対してIOWNの国際接続性の担保や途上国を含めた世界展開に向けた公的標準策定の重要性を提案し、合意を得ました。この合意に基づき、NTTはITU-Tにおいて国際相互接続に関する技術仕様などの標準化活動を進める予定です。さらに、NTTの秘密計算技術がISO国際標準として採択されるなど、IOWNに関連する技術の標準化も進展しています。これらの取り組みにより、IOWNの技術仕様の国際的な普及と相互運用性の確保が期待されています。
IOWN実現への課題
IOWNの実現に向けては、技術的および社会的な課題が存在します。以下は、IOWNが直面する主な課題のリストです:
- 消費電力の削減:IT機器の消費電力量の爆発的増加に対応するため、革新的な低消費電力技術の開発が必要
- 大容量化と低遅延の実現:急増するデータトラフィックに対応するための技術革新が求められる
- グローバル市場での主導権獲得:世界標準化に向けた取り組みと国際的な協力体制の構築が重要
- 幅広い参加パートナーの確保:多様な産業分野からの協力と参画が必要
- 技術の実用化:2030年の導入目標に向けた研究開発の加速と実証実験の推進
- インフラ整備:特に米国など、光通信インフラが未整備の地域での展開
- 法制度の見直し:新技術の導入に伴う規制や制度の適応
これらの課題に対処することで、IOWNは次世代の通信基盤として大きな可能性を秘めています。
IOWN参画企業の取り組み
IOWN構想には多くの国内外企業が参画しており、各社が独自の技術や知見を活かして取り組みを進めています。IOWNグローバルフォーラムには2024年時点で130社以上が参加しており、その半数以上が日本企業です。主要な参加企業とその取り組みは以下の通りです:
- NTT:IOWN構想の提唱者として、全体的な構想の推進と技術開発を主導しています。
- インテル:IOWNグローバルフォーラムの設立メンバーの1つとして、半導体技術の面から貢献しています。
- ソニーグループ:同じくIOWNグローバルフォーラムの設立メンバーとして参画し、エンターテインメント分野での応用を探っています。
- エリクソン:通信インフラの観点からIOWN構想に参加しています。
- NVIDIA:AI・GPU技術を活かし、IOWN構想の実現に向けて協力しています。
- KDDI:NTTとともにオールフォトニクス・ネットワーク(APN)のグローバル標準化に向けて基本合意書を締結しました。
- アクセンチュア:2021年7月にIOWN構想でNTTと業務提携を結び、デジタルツイン技術の開発などに取り組んでいます。
これらの企業以外にも、日本電気(NEC)、富士通、日立製作所などの日本の大手IT企業や、多くの中小企業、研究機関が参画しています。参加企業は、それぞれの専門分野や技術を活かしてIOWN構想の実現に貢献しています。例えば、半導体メーカーは光電融合デバイスの開発に、通信機器メーカーは高速・大容量通信技術の開発に、ソフトウェア企業はデジタルツインやAI技術の応用に取り組んでいます。
ただし、IOWN構想の大胆さゆえに、参加企業の中にも温度差があることが指摘されています。ある参加企業の幹部は「100%賛同してNTTのIOWN構想に参加しているわけではない」と述べており、各社の取り組み姿勢には差があることがうかがえます。IOWN構想の成功には、これら多様な企業の協力と技術の融合が不可欠であり、今後もグローバルな協力体制の強化と技術開発の加速が期待されています。