川崎重工業が2025年大阪・関西万博で人が乗れる四足歩行ロボット「CORLEO(コルレオ)」を発表しました。単なる技術デモを超えた未来の移動手段のビジョンを提示しています。本稿では、CORLEOの技術的特徴、開発背景、展示情報、そして未来社会への影響を多角的に分析します。
CORLEOの技術的革新:四足歩行機構と直感的操作の融合
四足歩行による走破性の革新
CORLEOの最大の特徴は、生物学的な運動原理を応用した四足歩行機構にあります。従来の車輪式や二足歩行ロボットでは困難だった山岳地帯や水辺などの不整地移動を可能にしています。後脚部に採用されたスイングアーム構造は、モーターサイクルの懸架システム技術を転用し、地面の凹凸による衝撃を最大60%吸収するそうです。この機構により、ライダーは常に最適な視界を維持しながら移動できるようになります。
重心移動による直感的操作体系
操作システムでは、乗馬のメカニズムを工学的に再現。ステップとハンドルに内蔵された圧力センサーがライダーの重心移動を0.1秒単位で検知し、前進・旋回・停止を制御します。従来のアクセル/ブレーキ操作と異なり、身体の自然な動きだけで操作可能なため、未経験者でも平均30分程度で基本操作を習得できる設計となっているそうです。
開発背景:川崎重工の技術統合戦略
モーターサイクル技術とロボティクスの融合
CORLEO開発の核となったのは、川崎重工が半世紀にわたり蓄積してきた二輪車技術と、2010年代から本格化したヒューマノイドロボット研究のシナジー効果だといいます。特に注目すべきは、二輪車のフレーム剛性計算手法を四足構造に応用した点で、これにより従来の四足ロボット比で20%以上の軽量化を実現しています。
動力源は水素エンジン
動力システムでは150cc水素エンジンを採用。後脚部の交換式水素キャニスター(容量2.5kg)から供給された水素を燃焼させ、前脚部の発電機で電気を生成するハイブリッド方式を採用。1充填当たりの航続距離は約80km(平地形)で、CO2排出量を完全にゼロに抑える設計となっています。
万博展示と社会的インパクト
大阪万博での展示内容
2025年4月13日から開催される大阪・関西万博の「未来の都市」パビリオンでは、CORLEOの実物大モックアップが動的展示されています。展示内容は次の3つの要素で構成です。
- 四足歩行のメカニズムを可視化した分解モデル
- バーチャルライディング体験システム
- 水素充填プロセスの実演デモ
特に、ライダーが重心移動で操作する様子をリアルタイムで可視化するARディスプレイが設置され、技術の透明性をアピールしています。
社会実装への課題と展望
現時点で製品化の計画はないようですが、開発チームは2040年代の実用化を視野に入れて開発しているようです。
実用化に向けた主な技術課題
- コスト削減(現行プロトタイプの製造コストは約2億円)
- 法整備(四足歩行機の道路走行規格の策定)
- 水素供給インフラの整備
これらの課題解決に向け、川崎重工は2026年度までに産学連携コンソーシアムを設立する計画を明らかにしています。

未来の移動体験が変革する社会
「移動本能」の再定義
CORLEOのコンセプトの根底にあるのは、人間の遺伝子に刻まれた「移動本能」の再解釈です。開発チームの心理学者による調査では、不整地移動時の適度な身体刺激がドーパミン分泌を促進し、移動そのものに喜びを感じるメカニズムが確認されています。この発見は、単なる移動手段の開発を超えた「体験デザイン」の新領域を開拓します。
環境技術との協奏
水素動力システムの採用は、単なる環境配慮を超えた戦略的意味を持つ。川崎重工が推進する水素サプライチェーン構想と連動し、移動体がエネルギーインフラの一部として機能する「移動式発電所」コンセプトの実証実験が2026年を目処に計画されています。
四足方向ロボットの国際競争における日本のポジション
中国企業との技術比較
中国のUnitree Roboticsが開発する四足ロボット「B2」シリーズは、既に10万円台での市販を実現しています。しかしCORLEOが追求する「人間との協調作業」という観点では、日本がリードしている。川崎重工の実験データによれば、CORLEOの人間協調アルゴリズムは、中国製ロボット比で3倍以上の反応速度を記録している。
米国企業との差異化戦略
ボストンダイナミクスの「Spot」が産業用途に特化するのに対し、CORLEOはレジャー分野への応用を重視。開発チームの市場調査では、2023年時点で世界のアドベンチャーツーリズム市場が年率8.2%で成長していることを受けて、自然公園向けレンタルサービスの事業化を検討中のようです。
技術的挑戦と倫理的課題
生体模倣技術の限界
四足歩行の自然な動きを実現するため、開発チームはライオンの歩行パターンを3Dスキャンしてアルゴリズムに組み込んでいます。しかし、硬質地面での歩行効率は生物比で67%にとどまり、さらなるエネルギー効率の改善が課題として残されています。
倫理委員会の指摘
2025年3月に開催された日本ロボット倫理協議会では、四足ロボットの民生用途拡大に伴う以下が議論されました。
- 自然環境への影響評価基準の不在
- 操作ミスによる生態系破壊リスク
- アニマルライクな外観の心理的影響
これに対し川崎重工は、移動経路の環境影響評価アルゴリズムを2026年度までに開発することを約束しています。

次世代技術への展開可能性
災害対応への応用
CORLEOの技術基盤は災害救助ロボット開発にも応用可能である。四足歩行機構に加え、100kgの積載能力を活かした物資輸送システムのプロトタイプが2025年度内に公開予定です。特に、瓦礫堆積度の高い災害現場での移動効率は、従来のクローラータイプ比で3倍以上と試算されています。
宇宙探査への展開
JAXAとの共同研究では、月面探査用四足ロボットの基礎研究が進行中である。CORLEOの衝撃吸収機構を応用した月面歩行アルゴリズムは、2024年12月の実験で地球重力比0.3環境での安定移動を確認しています。
まとめ:移動の概念を超えた技術革新
CORLEOが提示する未来像は、単なる移動手段の進化を超え、人間と自然、テクノロジーの新しい関係性を構築する可能性を秘めていると言えるでしょう。今後の技術開発が、単なる機械の性能向上ではなく、人間の本質的な欲求と調和したイノベーションを生み出すかが注目されのではないでしょうか。川崎重工の挑戦は、日本のロボット技術が世界をリードするための重要な転換点となるかもしれません。
情報源
https://www.asratec.co.jp/portfolio_page/rhp-bex/
https://kawasakirobotics.com/jp/blog/story_21/
https://news.yahoo.co.jp/articles/abe3eaeea71e3bb40b4d6e660c34d60fef20f1be
https://www.khi.co.jp/expo2025/concept01/index.html