次世代エネルギーとしての水素エネルギーへの期待はますます増すばかりですが、実現までにはさまざまな課題を解決していかなければなりません。今回は、その中でも「水素の貯蔵」について、トクヤマが開発した水素化マグネシウムをご紹介します。
水素の貯蔵がなぜ課題なのか?
エネルギーはいろんな場所で利用されるためガソリンのように大量に運搬できる方がコストが下がり良いのですが、水素は沸点が低いため常温では気体となってしまい運搬には向きません。そこでいくつかの方法が考案されています。
- 水素を低温高圧状況下で液体にして貯蔵し運搬する。
- 液体アンモニアに変換して貯蔵し運搬する。
- 水素吸蔵合金に吸蔵して貯蔵し運搬する。
しかし、低温や高圧にエネルギーがかかったり、利用時にアンモニアを改めて水素に変換するなど手間や他の設備も必要になったり、水素吸蔵合金はコストがかかりそのそも重すぎるなど、効率的とは言えないのです。
水素を化合物に吸収させるという考え方
そこで出てきたの水素化合物との化学反応によって水素を吸収させて運ぶという考え方です。その筆頭候補が、トクヤマの水素化マグネシウムです。
トクヤマは、次世代の水素キャリアとして期待される水素化マグネシウム(MgH₂)の量産を開始し、年産30トンを目標に検討しています。この画期的な技術は、水素の安全な貯蔵と輸送を可能にします。脱炭素社会の実現に向けて重要な一歩となることが期待されています。
水素化マグネシウムのメリット
トクヤマは、バイオコーク技研と共同で水素化マグネシウム(MgH₂)の量産を開始。トクヤマの徳山製造所に導入された水素化反応器を用いて製造されます。製造プロセスでは、苛性ソーダ時に並行生産されるを吸収させることで水素化マグネシウムを生成します。水素化マグネシウムの量産化によるメリットは次の通りです。
- 常温・常圧で安定しているので、安全に保管・輸送が可能です。
- 軽量(比重約1)で、輸送コストの削減が見込めます。
- アンモニアを超える高密度の水素貯蔵が可能になります。
- 加水分解により、貯蔵している水素の2倍の水素を生成可能です。
この量産化により、水素エネルギーの普及が加速することが期待されています。
再エネ電力のバッファリング
水素化マグネシウムの製造は、再生可能エネルギー電力のバッファリング機能としても注目されています。トクヤマは、変動の大きい再エネ電力を活用して水素を製造し、それをマグネシウムに吸収させることで、エネルギーを安定的に保管・利用できるシステムの構築を目指しています。
- 再エネ電力の余剰分を水素として保管し、必要に応じて利用できる。
- 電力系統のバランス調整に貢献できる。
- 水素と同時に発生する酸素の有効活用により、水素コスト削減の可能性がある。
この技術は、再生可能エネルギーの大量導入に伴う系統問題の解決策の一つとして期待されており、持続可能なエネルギーシステムの実現に向けた重要な取り組みとなっている。
酸素の利活用によるコスト削減
トクヤマは、水素製造プロセスで副生する酸素の有効活用によるコスト削減を考えています。水電解による水素製造時に発生する酸素を、工場内の他のプロセスに利用することで、全体的な効率向上とコスト削減を図ってます。具体的な解決策は以下の通りです。
- 酸素富化による生産性向上:養殖場での酸素利用や、工場内での燃焼効率改善
- 酸素バーナーの活用:燃料と純酸素の燃焼により、エネルギー効率を向上させ、CO2排出量を削減
- 水素コスト削減を目的とした工場内他プラントとの廃エネルギーの融通
これらの取り組みにより、水素製造コストの低減だけでなく、工場全体のエネルギー効率向上とCO2排出量削減が期待されています。
無駄のない素材活用
水素化マグネシウム(MgH₂)に水(H₂O)をかけると、そのかけた水の量に比例して水素が生成されます。冒頭のメリットでもふれたとおり、保存していた水素の2倍生成されます。これこそ大きなメリットと言えるのではないでしょうか。なお、この過程は次の化学反応式で表されます。
MgH₂ + 2H₂O → Mg(OH)₂ + 2H₂
そして水素化マグネシウム(MgH₂)から水素を取り出した後、残った化合物は水酸化マグネシウム(Mg(OH)₂)になります。水酸化マグネシウムは、一般的に「マグネシアミルク」として知られる白色の固体で、様々な産業用途があります。
水酸化マグネシウムの主な用途
- 調酸剤や緩下剤などの医薬品
- 難燃剤
- 排水処理剤
結論
トクヤマの水素化マグネシウム技術は、水素エネルギーの実用化に向けた重要なブレークスルーとなる可能性を秘めています。貯蔵・輸送の効率化、再生可能エネルギーとの統合、コスト削減、そして循環型プロセスの実現など、多面的なアプローチにより、持続可能な水素社会の構築に大きく貢献することが期待されます。 今後の技術開発と実用化の進展に、業界の注目が集まっています。
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